Learning by doing  | いのちがめぐる暮らし

まなび、めぐる暮らし

自然と触れ合い、好きになる。そこから「守りたい」は持続する|FUUSHIKAorganic

Learning by doing
実践しながら学ぶ|vol.5

tanetoのテーマの一つは「 – Learning by doing – 実践しながら学ぶこと」。環境問題に取り組みたいと思っても問題が複雑に思えて「何をしていいのか分からない」という声も多いなか、正解のないこの時代に進む道をみつけ、ひと足先に「めぐる暮らし」をはじめているあの人にお話を聞いてみるコーナーです。

今回お話を伺ったのは、森隆博さん、薫さん夫妻


甲斐駒ヶ岳を望む雄大な景色の中、北杜市小淵沢にて無農薬無肥料の野菜づくりを行っている「FUUSHIKAorganic」の森隆博さん、薫さん夫妻。北杜市内の個人宅や店舗への直接配達のほか、WEBサイトを通じ全国へ宅配野菜やオーガニックで厳選された調味料などを届けています。
Instagram @fuushika_organic


自然と触れ合い、好きになる。そこから「守りたい」は持続する

箱を開けた瞬間、大地の気配が息づくフウシカオーガニックの野菜たち。エネルギーに溢れた彼らのふるさとは、農薬はもちろんのこと肥料も外から持ち込まない畑。その地で巡る自然とタネに宿る力がいのちを育み、それは滋味深い味にも表れます。

「僕たちの畑は森がお手本。森では人が土を作らなくても、微生物と植物の循環で時間をかけて豊かになり続けていく。自然はそれだけで調和のとれた、完結した存在です。僕たちが栽培のためにやっているのは、なるべく自然の調和を邪魔せずに植物がのびのびと育つようサポートすること」と隆博さん。

自然環境とタネに寄り添った野菜作り。50種あれば50通りの成長があり、それぞれに適切に向き合うことは大変難しいこと。それでもブレないで挑めるのは「子どもたちが安心して食べられる野菜と、そのための豊かな自然を未来に残したい」という創業時の想いから。ご自身も3児の母である薫さんは「全てのお母さんが自分の子どもに安心して食べさせられる野菜を作っていきたい」と話します。


アニメ制作、パタゴニア、そして農家になる。

今では子育て中のお母さんを中心に支持を集めるフウシカオーガニックですが、森夫妻が北杜市に移り住み就農したのは今から5年前のこと。隆博さんは当時を「自然から離れた生活が、自然に戻ることに本能的にしてくれた」と振り返ります。

移住前は二人とも東京で商業アニメーションの制作に従事。繁忙期になると食も健康も省みる余裕なんてない激務の日々だったそう。「ひと息つきにスタジオから出ると、初めて雪が降っていたことに気づくんです。空も見上げず籠っていたのかと思うと、四季を感じる暮らしがしたいと無性に思うこともありました」と薫さん。幼い頃は山と川が身近にあり、その豊かさを知っていた薫さんにとって、このままでは立ち行かなくなることを自身の体調の変化からも感じていました。

そんな薫さんは一時期スタジオジブリに在籍。

「ジブリのアニメって食のシーンがとても印象的。でもそんな映像を制作している自分はというと、食べることを全く大切にできていない。同じものづくりなら自分の身を養うものづくりがしたい。自給自足の生活に憧れが募りました」


一方の隆博さんは根っからのクライマー。一足先に環境課題に先進的なアパレルブランドpatagoniaに転職をします。環境に関する最新情報を受信し学びながら、自身もまた接客を通じ環境負荷を減らす取り組みに向き合う日々。その中で農業が土壌・海洋汚染に大きく関与している事実を知り、オーガニックな農という手法にとても興味を持ったと言います。


そんな中、長野県川上村に期間限定でオープンしたクライミングストアに転勤となったことを機に、隣接する北杜市との縁が深まります。薫さんとも何度も足を運び、友人知人が増えていく中、豊かな自然の中で家族と共に暮らしていくイメージを温めていきました。

時を同じくして長女を妊娠し、子どもに安心して食べさせられる食とは何か、この先の未来と環境について真剣に向き合った二人。それまでの想いや様々なきっかけや条件が重なり、農家という新たな道が開かれます。幸いにも北杜市内で自然栽培を学べる機会に恵まれ、研修を経て1年半後フウシカオーガニックとして独立しました。


自然の素晴らしさ、愛おしさが育むもの。

フウシカオーガニックで森夫妻が最も大切にしているコミュニケーション。それは隆博さんのパタゴニア勤務時代の学びが活かされています。

「『環境を守ろう』といきなり言われても行動は変わらないですよね。まずは五感で触れて、自然の素晴らしさや愛おしさに気づくこと。そこから自然を好きになって初めて伝わる気がします」と隆博さん。

野菜の配送時には出来栄えや味だけではなく、畑にいる虫や自然の営みをなるべく感じて頂けるように工夫。お客様を積極的に畑に招き収穫体験や田んぼイベントを実施しているのもその一つ。今年からは小淵沢保育園の教育ファームにも参画し、四季を通した野菜づくりを通し、地域の子どもたちが土に触れ合うきっかけづくりに取り組んでいくと言います。


「東京のお客様に送ったレタスにアオムシが入っていたことがあって。普段なら虫が苦手な息子さんが、その様を見て『かわいい』と愛でてくれたと、お母さまがとても喜んで下さいました。畑にもわざわざ足を運び田植えも体験してくれたご家族。ここに在る自然と目の前のいのちが繋がったのかなと想像し、感動したのを覚えています」と薫さん。

フウシカオーガニックの宅配野菜ではビニールを使った袋詰めは一切無し。ついさっきまで地球と繋がっていた息吹が直に伝わり、手にした人の感性を刺激します。


「ブームだけではオーガニックも自然栽培も続かない。だからこそ、自分の子どものように本心から環境を守りたいと思えるかどうか。そのために自分自身もまた、普段から本能的に自然と触れ合っていたい。それが僕のクライミングへの想いでもあります。栽培が難しく壁にぶつかる瞬間でも、その気持ちが真ん中にあるから踏ん張れる。心の底から守り続けたいと思うために、登り続けたいですね」


循環していくオーガニックな暮らし

現在フウシカオーガニックではRegeneKOと共に、顔の見えるカフェやレストランから集めたコーヒーかすと、コーヒー豆を焙煎した時に出る焼けた薄皮(チャフ)を堆肥化するプロジェクトを実験的に進めています。

「お店の方にとっても手間のかかる作業ですが、みんながどうにかしたかった問題。声をかけたら快く協力してくれて、みんなで経過を楽しんでいます。私たちの畑は自然栽培のため、作った堆肥は別の場所での活用を考えていますが、まずは顔の見える方々と力を合わせて地域内で資源を再利用してみたい。自然とは何か、循環とは何か。仕事を通して浮かんだ疑問を学ぶ姿勢で参加しています」と薫さん。

その地に在るものだけで育てるフウシカオーガニックの畑は、まさに自然であり循環そのもの。そのピントを少し広げて見ると、地域に心地のよい助け合いが広がっていくことに気が付きました。


「堰き止められていた何かが、出口が見つかって“ピューッ”と飛び出していくような感じ。循環を目指してみんなが少しずつ助け合ってくれて、とても気持ちが良いんです。土に還して作物を作って、という物質的な循環に囚われすぎていたのかもしれない」と隆博さん。

未来をより良くしていこうという人の想いのエネルギーもまた、個を超え、組織を超え、地域を巡っていきます。フウシカオーガニックの作業場に掲げられている「organic life support」という言葉には、森夫妻が目指す未来が描かれていました。

「organicという言葉は、日本では認証ラベルとして認識されがちですが、本来は『全てのいのちと共存する』という思想や運動を意味します。フウシカオーガニックはその源流を大切に、理想を体現していきたい。僕たちと野菜を通してその想いが伝わり、共感していただける方と出会えたら嬉しいですね」と隆博さん。


今シーズンの宅配野菜の受付は4月頃からスタート。自然大好き、子ども大好きな森夫妻の手から、ぜひエネルギー溢れる野菜を受け取ってみてください。

FUUSHIKAorganic

Online Store https://fuushika.com
Instagram  @fuushika_organic

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『ロハスの思考』(ソトコト新書)著者。「なぜ食べる?何を食べる?」食に携わる人方に、一度は読んでほしい一冊。

中森 千亜季|種と風広報舎
東京から八ヶ岳山麓へ移り住み10年。ハウスメーカーと工務店の広報担当を経て「種と風広報舎」設立。夫と娘の3人山暮らし。柴犬情報、募集中。

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