山梨でみつけるエシカルな暮らし

暮らしのつくり手を訪ねて

日々をつくる、小さないきものたち|発酵デパートメント山梨

tanelabo 暮らしのつくり手を訪ねて
DAY.1|日々をつくる、小さないきものたち


山梨の自然や文化をテーマにみんなで暮らしを語り合う、小さな公開取材の場「tanelabo」が始まりました。井戸端会議のように肩の力を抜いて語れる時間を大切に、暮らし、金融、森、農業、環境教育など、毎回テーマを変えながら開催しています。それぞれ異なる立場や背景を持つ人が語り合うことで生まれる新しい気づき。視点が変わることで、日常の中に少し違った風景が見えてくるかもしれません。

今回お話を伺ったのは、小野 民さん


1984年東京都生まれ、宮城県育ち。発酵デパートメント。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食・暮らしなどの分野で、編集・執筆を行う。人間4人、猫4匹で山梨県在住。
Instagram @hakko.department.yamanashi


日本各地の個性豊かな発酵食品や調味料が集う「発酵デパートメント山梨」。2025年4月、東京・下北沢の本店に続く2号店として、山梨県甲州市のcirque(シルク)内に誕生しました。今回は、店長であり編集者でもある小野 民(おの たみ)さんに、これまでの歩みやお店が生まれるまでの道のり、そして発酵という文化を通して見えてくる世界観を伺います。


「100歳までここで暮らしたい」
発酵デパートメント山梨が生まれたわけ


宮城県の山あいで育った民さんは、大学卒業後に農文協へ入社。雑誌『現代農業』編集部で、50ccのバイクに乗って毎日10軒以上の農家を訪ね、現場の声を編集部へ届ける仕事からキャリアをスタートしました。一次産業の最前線に身を置いた経験は、「食や農への関心を育んだ原点だった」と振り返ります。

「東日本大震災をきっかけに、フリーランスとしての働き方を選ぶようになりました。実家は宮城の山のほうで津波の被害はなかったんですが、母がひとりで暮らしていたこともあって、『何かあったときに、すぐ行ける距離にいたい』という気持ちが強くなっていったんです。

東京で妊娠していた頃、ちょうど『保育園落ちた日本死ね』っていう言葉が話題になっていて。妊娠中から“保活”をしなきゃいけない状況に、少し違和感があったんですよね」


東京では、保育園に申し込んでも全部落ちる、みたいなことが当たり前に起きていた一方で、少し都市の中心を外れれば「子どもがいなくて困っている」と言われる地域もある。その極端なギャップに、民さんは強い違和感を覚えたといいます。

「保育園を探すなら、友人がいる山梨にしようかなと思って。思い切って移住!というよりは、中央線沿線に引っ越したくらいの感覚でした。子どもが生まれる少し前に山梨へ来て、ゆるやかに暮らしの軸足をこっちへ移していった感じですね」

フリーランスとして編集やライターの仕事を続けながら、数年かけて山梨での暮らしに馴染んでいった民さん。そんな人生が新たな方向へ向かうきっかけとなったのが、発酵デザイナーとして活動する夫・小倉ヒラクさんによる「発酵デパートメント」の立ち上げでした。
 

 
「発酵って健康とか腸活のイメージが強いと思いますが、夫は全国を旅しながら風土に根ざした発酵文化を調べて、“文化”とか“科学”の視点から発酵にハマっていったタイプ。全国の発酵食品を集めた『Fermentation Tourism Japan』という企画をやったことがきっかけで、『こういうのを常設で楽しめるお店があったらいいよね』という話になったんです」

2020年4月1日、東京・下北沢。そんな思いから生まれた「発酵デパートメント」は、コロナ禍の始まりと重なるタイミングでオープンしました。

「いや〜ほんとよく5年やってこれたなって(笑)。山あり谷ありでしたが、美味しくて楽しいっていう発酵の良さを、ずっと伝え続けてきた感じですね。この建物(cirque)も、最初はオンラインショップの倉庫だったんです。東京のお店の物流拠点として使っていたんですが、住んでいる場所からも近いし、こんなに広いなら、他の人とシェアしたほうが楽しいんじゃない?と思って」

長らく空き家状態だったという大きな建物。かつて国の施設として使われていた場所を、大家であるABCパートナーズと一緒に不動産サイトにも掲載しながら、新しい使い方を模索していきました。そうして少しずつ人が集まり、この場所は新しい拠点へと変わっていきます。


想いが共鳴。多種多様な人やモノが集う場所に

ガレージのアウトドアショップ、週に1回だけ開くベビー服屋さん、朝7時から営業するコーヒー屋さん、土鍋屋さんなど。なかでもユニークなのは、月に3回だけ開く本屋さんです。

「いつか本屋さんをやってみたいなと話していた編集者仲間に、ダメもとで声をかけてみたんです。まさか実現するとは思ってなかったんですが、そんなことがあったら嬉しいな、くらいの気持ちでいたら引き受けてくれて」

甲州市には、本屋が1軒しかないという現状もあり、「2軒目がこの場所になったことが、ちょっと誇らしい」と民さんは笑います。

この場所を、単なるお店ではなく、多種多様な人が集い、交流できる楽しい場にしたい。そんな想いに賛同するメンバーが集まり、建物1階に「発酵デパートメント山梨」がオープンしました。

「東京だけでなく、ローカルな場所でローカルなものとつながれる場所にしたい」。その想いは少しずつ地域に広がり、毎月第1日曜日に甲州市役所前で開かれる「勝沼朝市」の日には、多くの人が立ち寄る場所になっています。

「山梨が好きだから、100歳までここで暮らしたい」。地域への愛着と「良くしていきたい」という想いが、発酵デパートメント山梨の原動力なのでしょう。
 

 
贅沢品になる味噌や日本酒。
選択肢がなくなるかもしれないという現実


この場所が少しずつ形になってきた頃、ヒラクさんがSNSに投稿した言葉が、大きな反響を呼びました。

「これは値上がりの問題じゃない。選択肢がなくなる危機だ。発酵デパートメントで起きていること。昨年まで仕入れられていたものが、今年は手に入らない。そんなことが、急激に増えています。原料がない、作る人がいない、資材や設備がない。これは米作りだけでなく、食を支える産業全体が限界に近い―――

例えば、秋田ではハタハタの不漁により、日本三大魚醤のひとつである「しょっつる」が作れない事態に。岐阜では、暑すぎて「アユのなれ寿司」が崩れてしまったそう。宮崎では、海の生態系が変わって海藻が採れず「ムカデノリ」が取り扱えない…。

問題は、農業や漁業だけではありません。作り手の高齢化により、1回あたりに製造できる数に上限が出てきてしまいます。さらに、資材不足やメーカーの廃業に伴い、レトロでかわいい一合瓶のお酒が手に入らなくなってしまうかもしれません。食のこと、ものづくりのこと、地方のことを長い間軽視してきた結果が、今年(2025年)に出てしまっているのです」と、ヒラクさん。


それは一部の産業の話ではなく、食を支える文化そのものの危機でもありました。

「味噌や日本酒も大きく値上がりするかもしれません。特に国産原料を使っている地方のメーカーほど影響が大きい。こだわりの味噌や日本酒が、贅沢品になる未来もあり得ます。それぞれの地域で頑張る人たちがたくさんいます。一人ひとりが自分にできる範囲で、選択肢を増やす行動が必要となるでしょう。地域やモノづくりに真剣に取り組むお店は、日本各地に点在しています。自分の家の近くにある地域のお店を見つけ、ぜひ活動を支えてほしい」と、想いをつづりました。

 

――それでも、日常の中でできること

こういった状況の中、私たちができるのは、地域の取り組みを応援することや選択肢を増やすこと。

「私も発酵デパートメント山梨の店長として、たくさんの方々を支えたい。素晴らしい発酵食品、美味しいものを多くの方々に届けたい。良いものがなくなってしまうのは悲しいので。地域の生産者や、こだわりのものづくりをする人たちを応援し、これからも頑張っていきたいです」と、民さん。

民さんが「100歳までここで暮らしたい」と笑って話していたように、今日もこの場所で、誰かと美味しいものを囲むこと。日々の暮らしを大切に守るちいさな積み重ねが、気づけば地域の風景になっていく。

そんな豊かな時間が、ここには流れていました。


 

発酵デパートメント山梨

住所| 〒404-0043 山梨県甲州市塩山下於曽537−2 cirque 発酵デパートメント山梨
営業時間|10:00〜13:30/14:30〜17:00
定休日|不定休
HP https://hakko-department.com
Instagram @hakko.department.yamanashi
YouTube https://www.youtube.com/@hakko_d

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