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暮らしのつくり手を訪ねて

「豊かな地域循環を編みなおす」地域とつながる地方銀行のあり方を探しに|山梨中央銀行

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DAY.2|豊かな地域循環を編みなおす


生物多様性の森づくり・外来種防除・子どもたちへの自然体験は八代の地で始まりました―それは単なるCSR活動ではなく、地域の豊かさを次世代へ手渡すための約束なのかもしれません。地方銀行のロールモデルでありたいという使命感。そしてわたしたちの知らない一面がありました。風土や四季と共存しながら人の手仕事で育まれる暮らしの中に、どんな風景があるのでしょうか?株式会社山梨中央銀行 総務部 総務課 主任調査役の戸島さんにお話を伺いました。

今回お話を伺ったのは、戸島 秀和さん


2000年4月に銀行に入行、甲府市内で3つの支店を経験。2013年9月に管財課に異動してから、環境活動を行う。銀行生活は25年、管財課としては12年目。現在は主に施設管理に従事。



失われつつある豊かさを、もう一度取り戻すために

富士山、八ヶ岳、南アルプス、秩父山系など雄大な山々に囲まれている山梨県。森林や湖、河川、農地など多様な生態系に適した生物が生息しています。これらの豊かな自然資本とそれが生み出す生態系サービスは、山梨の経済や暮らしを支える大切な基盤です。具体的には、農業や観光などは、山梨の主要産業に欠かせないものとなっています。


しかし近年、開発やかく乱などにより絶滅の恐れのある種が増加し、外来種の侵入や拡大によって在来種への悪影響が拡大。生物多様性の損失が進み、自然資本の劣化や生態系サービスの量と質が変化するおそれがあります。これらが失われると、私たちの暮らしの豊かさは急速に失われていくでしょう。

このような状況の中で、生物多様性の損失を止め、回復へと向かわせる―いわゆる「ネイチャーポジティブ」に向けて、地域特性を踏まえて行動する必要があります。

「山梨の自然環境を次世代に継承することは、私たち金融グループの重要な責務です。3年前に私たちは『山梨から豊かな未来を切り拓く』というスローガンを銀行のパーパスとして掲げました。気候変動問題や生物多様性をはじめとする環境問題の解決に積極的に取り組んでいます」

「できることから」始めた変化

「気候変動と聞くと抽象的に聞こえるかもしれませんが、皆さんも感じているように、やっぱり暑いですよね。私は汗っかきなので特に感じますが、今年の暑さは本当に異常です。私が子どもの頃は真夏日が多かったですが、今は猛暑日という言葉が当たり前になりました。地球温暖化ではなく地球沸騰化とも言われるようになっています。これはまさに、私たちが日常の中で実感していることです」

世界の平均気温は、100年前から比べると約1度上昇。甲府市の平均気温も、この100年で約2度上昇し、このままでは南国のような気候になるかもしれません。そんな中、山梨中央銀行でも気候変動に向き合う取り組みを行っています。


「まずは電力の見直しです。山梨県と東京電力エナジーパートナー株式会社が共同運営する電力ブランド『シン・やまなしパワー』を導入しました。日本国内では現状もっともクリーンなエネルギーの一つで、CO2フリーと言われています。山梨県営水力発電所による上から下に水を落として発電した電気を、現在、本店や電算センターなど電力消費の多い10拠点に導入。2024年度には1,657トンのCO2削減を達成しました。これは銀行全体の約半分にあたります。次に始めたのは、太陽光パネルの導入です」

山梨中央銀行吉田支店の屋根に、NTTドコモと連携して太陽光パネルと蓄電池を設置。設備はドコモ側が所有し、発電した電気を当行が購入する「PPA方式」と呼ばれる仕組みです。現在はまだ実験段階ですが、支店で使う電力をCO2フリーの電気へと切り替えていく取り組みが進んでいます。

さらに、CO2削減の一環として小型から大型まで合計23台の電気自動車も導入。その一歩が、新しい挑戦へとつながっています。


銀行が森に入った日──里山再生に込めた最初の一歩

山梨中央銀行が次に向かったのは、オフィスの外に広がる「里山」でした。きっかけとなったのは、2011年に始まった耕作放棄地の再生プロジェクトです。

「まず『山梨中銀ふれあいの里山』。中央市の0.23ヘクタールの耕作放棄地を、地元農家や森林組合と一緒に再生しました。」

銀行の取り組みは、森の整備だけにとどまりません。日常の業務の中にも、少しずつ環境への視点を重ねてきました。次に手掛けたのが「環境にやさしい通帳袋」です。


「2021年からは、通帳を希望されるお客様にトウモロコシの皮を使ったバイオマス素材の袋をお渡ししています。銀行としては通帳レスを推奨していますが、必要な方には環境負荷の少ない素材で対応しています」

さらに、2022年度からは「生物多様性のための30 by 30アライアンス」にも賛同。環境省が掲げる「2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系に戻そう」という目標に沿って、地域金融機関としてできる行動を積み重ねています。
そして2024年には、「カブトムシやクワガタが棲める森をつくりたい」という想いから、笛吹市八代町にある約0.6ヘクタールの山を借り、クヌギやコナラの植樹を開始。日本ミツバチの巣箱を設置する試みも始まりました。

まだ日本ミツバチは入ってきていませんが、花を植えたり、香りをつけたりしながら、少しずつ呼び寄せる準備を続けています。日本ミツバチの蜂蜜は希少で味もよく、もしうまくいけば、地域の新しい小さなビジネスにつながる可能性もあるそう。

「正直なところ、最初は『支店から行けと言われたから』という理由で来る職員もいました。でも、実際に土に触れて、汗をかいて作業すると、みんな不思議と笑顔で帰っていくんです。活動の合間に、森林組合の方がふるまってくれるほうとうが本当においしくて。ああいう時間があるから、続けられるんだと思います」

森に足を運び、手を動かし、誰かと同じ時間を過ごす。その一つひとつの積み重ねが、地域の自然との関係を、少しずつ編み直していきます。


小さな手が拾い上げる、生き物との出会い

戸島さんは、もともと農家の出身ではなく、野菜づくりも草刈りもこの活動がはじまってからの挑戦だったといいます。最初は戸惑いの連続。それでも、関わり続ける中で、目の前の風景の見え方が少しずつ変わっていったそうです。

「12年前に総務部に配属され、この活動が始まったときは、全然活動が好きではなかったんです。『正直、マジか』という感覚でした。昆虫も大嫌い。ゴキブリが出たら妻より先に逃げるタイプ。それが10年経つと、仕事として向き合う中で、生き物がたくさんいるとワクワクするようになりました。今もゴキブリは苦手ですが、生き物はみな愛おしい。こういうおかしな銀行員もいる、ということも確かです。知らないと動けない。でも、知ると愛着が生まれる。身近な自然を『自分ごと』として捉えてもらいたいんです」

森での活動には、地域の子どもたちや行員の家族も参加しています。ただ「自然を守ろう」と呼びかけるだけでは、若い世代には少し距離がある。そこで戸島さんたちが大切にしているのが、“見つける”という入り口です。

「『自然を守ろう』と呼びかけるだけでは若い世代はなかなか参加しにくいんです。でも『生き物を見つける』ことをテーマにすると来てくれる。『この森にどんな生き物がいるか調べてみよう』と声をかけると、多くの子どもが集まります。木を叩いて落ちてくる虫を観察したり、羽を拾って先生に教えてもらったり。小さな発見が自然をぐっと身近にしてくれます」

「見つける」という体験は、子どもたちの好奇心をそっと引き出し、自然を学ぶ入り口になっていきます。気づけば、家族や地域、そして森との関係もゆるやかに広がっていく。大きな理念を掲げるのではなく、小さな発見を積み重ねること──その先に、自然との新しい関わり方が見えてくるのかもしれません。


金融が森をつくる

山梨中央銀行では、地域企業の脱炭素や生物多様性の取り組みを支える新しい金融のかたちとして、「グリーン預金」の検討が進められています。お金を預けることが、遠くの数字ではなく、身近な森を育てる行為へとつながっていく──そんな循環をつくろうとしています。

さらに、2025年4月に設立された子会社「山梨地域デザイン会社」では、地域の自然資源を価値として可視化する手段のひとつとして、Jクレジット制度の導入も検討されているそう。

中央市の森では、一般社団法人ヤマネ・いきもの研究所の協力のもと、生物多様性の調査が実施されました。わずか0.23ヘクタールという小さな里山から、240種類もの動植物が確認されたといいます。


今ではこの場所が環境省の「自然共生サイト(OECM)」に認定されました。

「銀行が自然のことをやるなんて、最初は自分でも不思議でした。でも山梨の産業の多くは、自然の恵みの上に成り立っています。それが失われたら、地域経済そのものが成り立たない。だからこそ、自然資本を守ることは『金融の仕事』でもあると思っています」

すぐに利益として可視化されなくても、企業が自然と向き合う姿勢は、地域の信頼や文化を静かに育てていきます。それは、長い時間をかけて積み重なる新しい価値。

お金の流れと自然の循環が、同じ方向を向きはじめたとき、金融は単なる仲介ではなく、地域の未来を耕す存在へと変わっていくのかもしれません。


本事業は、公益財団法人山梨総合研究所の令和7年度自主研究「住民主体の新たな環境社会としての循環型共生社会の創造に関する調査研究」 として、tanetoと共同で開催しました。

山梨総合研究所 HP https://www.yafo.or.jp/

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