山梨でみつけるエシカルな暮らし

まなび、めぐる暮らし

オーガニック卵に誇りをもって|黒富士農場

Learning by doing
実践しながら学ぶ|vol.18

tanetoのテーマの一つは「 – Learning by doing – 実践しながら学ぶこと」。環境問題に取り組みたいと思っても問題が複雑に思えて「何をしていいのか分からない」という声も多いなか、正解のないこの時代に進む道をみつけ、ひと足先に「めぐる暮らし」をはじめているあの人にお話を聞いてみるコーナーです。

*この記事はMiraiプロジェクトとのコラボレーションでお届けしています

今回お話を伺ったのは、向山 洋平さん

農業生産法人黒富士農場の代表取締役社長。 先代からの生産技術を継承しオーガニックの推進とアニマルウェルフェアの普及に力を入れています。

山梨百名山の黒富士の麓へと続く道の先に、養鶏を始めてから40年の歴史を刻む「黒富士農場」。日本で初めて卵の有機JAS認証を取得し、鶏たちは広々とした平飼いによってストレスフリーな暮らしを送っています。代表取締役の向山洋平さん(以下、向山)が目指すのは、環境に優しく循環している養鶏場と、アニマルウェルフェア(動物福祉)の両立。農場の規模拡大や利益追求に走らず、有機農業そのものを広めようと尽力する想いを伺いました。

 
オーガニック卵に誇りをもって


稲生 黒富士農場では鶏たちの幸せと安心安全な卵の生産、どちらも実現しているとのことですが、 平飼いを行うようになったきっかけから教えてください。

向山 日本ではたくさんの卵を作るために、環境をコントロールしやすく外窓がない鶏小屋(ウインドレスケージシステム)で育てることが一般的な選択肢として普及していますが、私たちが黒富士農場を始めた当時は、窓があって自然の風や光が入ってくる開放式のケージを使った飼育をしていました。それでも、あるとき地元の子どもたちが社会科見学で訪れ「鶏がかわいそう」といわれて、鶏が自由に動き回ることのできる平飼いにしようと決めたのはそこからですね。


同じ敷地のスペースでも、開放式ゲージだと10万個以上の卵が取れるのに対して、平飼いは半分もいかないくらい。少しずつ平飼いに移行していきましたが、かなりの設備投資と赤字でも続ける覚悟が必要でした。

私たちが平飼いをするとき参考にしたのが、ヨーロッパの知識。特にヘルマンズドルファーという農場は、平飼いをするだけでなく直売所やレストランも運営していて、アニマルウェルフェアの考えがとても高い農場なんです。命の循環に最後までかかわる姿勢や雰囲気を黒富士農場のベースにしています。

人も、鶏も幸せな居場所づくり


稲生 鶏たちが暮らしやすい環境づくりにこだわるようになったのは、なぜでしょうか?

向山  最初は、お客さんが来た時でもいつもきれいな農場でいたいという思いから少しずつ自分たちの農場に生産管理の余裕が出たタイミングで、環境改善活動を取り入れ始めたんです。

日々の管理作業も鶏舎のほこりを溜めないように、新築同然まで鶏舎を磨き上げながら掃除を徹底してきたおかげで、40年たった今でも鶏舎はすごくきれいなまま。ほかにも、鶏の鳥インフルエンザの予防のために防疫を徹底したり、生産された卵が産まれてからお店に並ぶまで農薬や化学肥料は使わず、鶏達が過ごす鶏舎内の敷料は乾燥させた有機堆肥を使用しています。

まだ国内に鶏卵での有機JAS認証がない2000年の時期から自然循環型の農法をいち早く採用していたことが認められて、日本で初となる鶏卵での有機JASに認定されました。有機JASをとるためには厳しい審査を毎年乗り越えなくてはいけないので継続させるのは簡単ではありませんが、だからこそ信頼できる「安全な卵」の証明になっていますね。


農場の全ての鶏たちに非遺伝子組み換え飼料を与え、オーガニック卵の生産鶏にはプレミア価格の有機飼料を与えています。開放式ケージの卵は1個30円位ですが、平飼い卵やオーガニック卵が倍以上の値段になってしまうのは、そうした理由から。たくさんの方に食べてもらうには価格を下げればいいのですが、僕たちは決めた価格を変えませんでした。平飼いやオーガニックにこだわることは、それだけ価値があると思っていますから。

こうしたこだわりが少しずつ認められて、1個100円でも購入していただけるようになりました。オーガニック卵を始めたときは1日約1300個くらいを出荷していましたが、今は常時1万個以上を常に出荷できるようになっています。平飼いは生産効率は下がるけれど、付加価値を高めることで売り上げは維持できますし、日本はまだ少し遅れていますが、ヨーロッパやアメリカに続いてそういう流れになっていくと思うんです。意識は高まってきていると思いますよ。


「水」で循環する農場


稲生 農場にあるもので水を作る「BMW」技術 について教えてください。

向山 BMWは「バクテリア・ミネラル・ウォーター」のことですが、この技術は「自然循環農法」ともいわれていて、岩石と腐葉土と水の力による自然浄化を基礎としています。長い年月をかけて森の木々や動植物が腐葉土となり堆積し、それが川にしみ込んで天然ミネラル水ができる森の分解の仕組みを、短時間で再現した画期的な農法です。


この技術では特別な菌を用いるのではなく、土着の微生物の力を活性化させて農産物や家畜を内側から健康にしていくことを目的としています。鶏小屋のツンとするにおいをなくしたり、虫が発生しないようにする環境づくりのために、もともとは水質改善のための工業技術だったのですが、畜産を中心とした農業に取り入れる研究を父親の代から始めました。私たちの鶏舎が鶏のフンや飼料の臭いがほとんどしないのは、BMWの技術のおかげですね。

いまは、この活性水を様々な形で応用して活用しています。飼料に添加しているクロレラの培養や、鶏舎内の最も重要な敷料作りにも活かしていて、この技術のおかげで水分のある鶏フンが分解されてサラサラな状態になるので、鶏舎内外が常に清潔な環境に保つことができて結果的に鶏達も病気が無くなりました。管理する生産者も衛生的な環境で生産管理ができるようになったり、有機堆肥の製造にもつながっています。

わざわざ外から特別な菌を入れるのではなく、もともとそこにいるちいさな生物たちが活躍できる環境を整えることで、鶏たちが気持ちよく過ごせる空間づくりをしているんです。



暮らしとオーガニックとアニマルウェルフェア


稲生 アニマルウェルフェアの考えについて洋平さんが感じていることはありますか?

向山 鶏や牛などの産業動物でもできるだけ幸せな状態にしてあげたいというのが私たちの考えるアニマルウェルフェアです。ただ、日本では動物福祉への関心がまだ海外ほど高くないのが現状で、日本は土地が限られていて湿気も多いため、海外のように動物たちに広い場所を与えることが難しいですね。特に、養鶏場では鳥インフルエンザが大きな問題です。これは一度発生すると近くの農場にも広がってしまう危険があるため、鶏を外で自由に歩かせる平飼いという方法を取り入れにくい原因です。

日本の卵は世界一安全で品質が高いのですが、特に生で食べられる卵があるのは、日本ならではの特徴。これは飼育方法に関係なく、全ての卵農家が良い卵作りに真剣に取り組んでいるからこそできることなんですよ。

その高い品質を保ちながらまずは日本で作られる卵の10%が平飼いになれば、動物にやさしい卵作りが広がっていくきっかけになると思っているので、平飼いに興味を持ってくれた農家さんには私たちが長年積み重ねてきた経験や技術を惜しみなく伝えています。より多くの農家さんと一緒に、動物にもやさしい卵作りを広げていきたいですね。


アニマルウェルフェア自体、実はヨーロッパやアメリカではスタンダードになりつつあります。スターバックスやマクドナルドなどの大手企業も平飼いの卵を使うようになってきましたし、ドイツのニュルンベルクでおこなわれる「BIOFACH」という世界有数のオーガニック見本市が一つの例です。これは、世界中からオーガニック食品・飲料のメーカー、バイヤーたちが集まり、最新の有機産業のトレンドや商品を紹介するお祭りのようなもの。私が視察で参加したのは2016年位でしたが、日本の有機のかなり先を進んでいました。

欧州では平飼いやオーガニックの取り組みが暮らしの中に自然と広がっています。オーガニック専門店などが点在し、生産された商品のデザイン性や見せ方もとても洗練されていて、付加価値がしっかりと伝わる仕組みがありました。日本の中にこのような再現が出来ないか、当時とても衝撃を受けた記憶があります。

オーガニックの価値を正しく知り、ライフスタイルを豊かにする重要な選択肢として取り入れていくことにつながますし、決して「オーガニック」も「アニマルウェルフェア」も特別ではない時代が来ています。



日本でオーガニックを広げるために


稲生 オーガニックがこれから広がっていくには何が大切だと思いますか?

向山 オーガニックが広がるためには、多くの人に「こだわり」を「価値」として理解していただくことが重要だと思います。逆に言えば有機卵をたくさん作るのではなく、僕たちの農場のように食品の安全性を確保するためのHACCPという管理手法やJAS認定など、ほかにない価値を高めていけば有機農業の可能性が開けていくと考えていますね。農場としては、これ以上の規模拡大や経済成長を目指すことよりも「安心・安全なものづくり」を大切にしながら、黒富士農場が培ってきた40年の技術を伝えるために新しいことに挑戦していくことが、これからの黒富士の在り方だと思っています。

今あるものから探す楽しさ


稲生 最後に、向山さんにとってうれしかったことや大切にしていることはありますか?

向山 自分たちが育てた卵をギフトやスイーツとして食べて、「おいしい」と素直に言ってもらえるのは生産者として本当にやっててよかったなと思える瞬間です。実際に農場に来て、農場の取り組みを知って、感激してくださった人がいるということも心の励みになってます。

今はある程度の解決策がスマホで検索すればすぐ出てきますが、あえて携帯から一歩離れて、現地へ行き自分の足で体感しながら経験する事を心がける。日々の体験の中で自分たちで答えを探して、違ったなら考えてみて、感じていくというのも大切だと思いますね。


自分の感性や経験をアップデートし続ける向山さん。自然の営みとともに豊かな農場を目指す黒富士農場の卵をぜひ味わい尽くしてみてほしいです。


稲生 明日香
面白そうなことがあればあと先考えずに動いてしまう大学生。taneto編集部で絶賛ライターの修行中。きのこが苦手で、「死ぬこと以外はかすり傷」という言葉がお気に入り。


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