Learning by doing
実践しながら学ぶ|vol.15
tanetoのテーマの一つは「 – Learning by doing – 実践しながら学ぶこと」。環境問題に取り組みたいと思っても問題が複雑に思えて「何をしていいのか分からない」という声も多いなか、正解のないこの時代に進む道をみつけ、ひと足先に「めぐる暮らし」をはじめているあの人にお話を聞いてみるコーナーです。
*この記事はMiraiプロジェクトとのコラボレーションでお届けしています
今回お話を伺ったのは、大井 明弘さん
家づくりを通じて「日本の山」の大切さ、そして地球環境の大切さを一人でも多くの人たちに伝える「アトリエDEF」代表取締役社長。NPO法人「エコラ倶楽部」理事長。
Instagram @atelierdef
車を降りると、目の前に広がるのは木々に囲まれた静かで優しい空間でした。地面に敷かれたウッドチップ、かまど、丁寧に積まれた薪。心地よい雨音の中で、しっとりと香る草木たち。自然と調和するように佇むのは「アトリエDEF 八ヶ岳営業所」
アトリエDEFが手掛ける住宅は、薬剤などが一切使われていない日本の山の木や土を使っているだけでなく、そのほか壁やケーブルや配管など家づくりで必要なあらゆる材料が環境によいものとなっており、住む人や自然環境への思いやりにあふれています。
今回は社長の大井明弘さんと、環境事業部の植松和恵さん、嶋明香里さんに、家づくりや山のこと、環境事業に対する思いを伺いました。
山を守ることが
暮らしを守ることにつながる
Q. アトリエDEFでは環境に優しい取り組みを沢山されていると伺いました。
具体的にはどんなことがありますか?
大井さん 我々がやっていることのほとんどが環境を守るためにしていることです。環境を守り育て、安心安全な家づくりをするためにアトリエDEFを立ち上げました。
例えば、私たちは国産の木材を活用して、山を再生しながら家づくりをしています。本来の山には雨水をろ過してきれいにするという浄水器のような役割がありますが、今の山は荒れ果ててしまってその力がないので、水が悪いんです。山に光が入ると草が生えて、それが枯れて栄養豊富な腐葉土になることで木は成長していきます。でも今は日本の山が手入れされていないので光が入らず、荒れているんですね。
木も年を経るにつれて二酸化炭素の吸収量が減っていくため、古い木ばかりが生い茂る山は地球温暖化を加速させますし、土砂災害が人の命を奪うのは、土壌環境の悪化により木がうまく根付かず、土止めの役割を果たさないことが原因です。水をきれいにする、二酸化炭素を減らす、そして土砂災害を防いで人命を守るために、健全な山をつくっていかないといけません。
「迷惑な」竹を「恵みの」竹に
大井さん 山が荒れる原因の一つに、「竹」があります。時期によっては1日に伸びる長さが1mを超える種類もあって、生い茂る竹が山に入る光を遮り、山の木を枯らしてしまいます。竹林が荒れてしまった理由のひとつが、プラスチックの使用量の増加に伴って人々が竹を使わなくなったことです。
ほとんどの人がビニール傘のような安価なプラスチック製品を失くしても、そんなに探したり気に留めたりしません。しかしこれらはやがてマイクロプラスチックとなってしまいます。プラスチックを使っちゃいけない、買っちゃいけないとは言いませんが、ちゃんと自分で管理してほしいんです。ところが安いから、みんな管理しないんですよね。プラスチックとは違って、竹をはじめとする自然由来のものは失くしても土に戻ります。だから竹でできたものを使って生活すればマイクロプラスチックも出なくなります。
そこで私たちは、山を守りたいという思いからアトリエデフ環境事業部をつくり、集まってくださる有志の方々とともに竹林整備に取り組んでいるんですよ。
嶋さん 竹林整備に参加してくれた方は、竹はもちろん、竹チップや竹パウダーなどを自由に持ち帰ることができます。竹チップや竹パウダーは畑やコンポストなどで大活躍なんですよ。春にはタケノコを掘ることもありますね。竹林整備といってもハードルが高くならないよう、「たのしい」ということを一番大切にしながら、より多くの人に興味を持ってもらえるようにしています。
大井さん 竹を切った後はその使い道を考えないといけなくて、それで竹の活用方法を模索した結果、「竹ペレット猫トイレ」が完成しました。このペレットはすべて竹のみでできており、竹ならではの高い消臭効果を持っています。さらに、使用済みの竹ペレットは土壌改良材や肥料として再利用できます。面白いでしょう。迷惑であった竹が、本当に地球のためになるわけです。
環と環 日本の竹でつくった猫トイレの砂
一部の人たちだけが担っている竹林整備
Q. 竹林整備を通して見えてきた課題はありますか。
大井さん 国や県から竹林整備の補助金がもらえないことですね。多くの場合、竹は民有地に生えているので所有者が整備しないといけません。そのため国や県の補助金による整備ができず、竹林整備にかかる費用は全て所有者の負担となってしまうんです。大半の方々が竹林整備を依頼しようとしても高額な費用を理由に諦めてしまいます。
植松さん アトリエDEFに寄せられる竹林整備に関する問い合わせの中には、県に相談してもあまり聞いてもらえなかったという声もあります。今は竹林問題への対応がほとんど民間企業に任されている状況なので、県による人件費や補助金などの支給があればいいのになと思います。
嶋さん 結局どの地域でも竹林の管理はその土地にいる人や市民のやる気次第だとされてしまっているので、やる気がなければ竹林は荒れていく一方です。でも本当は、みんなで環境を守っていけるといいですよね。
「バンブーマイスター育成講座」が目指す
全国での竹林整備の実施
Q. 活動を続けていくうえで何か工夫していることはありますか?
大井さん アトリエDEFでは「バンブーマイスター育成講座」を設けて竹林整備の担い手の育成にも取り組んでいます。「バンブーマイスター育成講座」は、全5回の座学と実技の講座を通して竹の扱い方や活用方法などを学び、修了するとバンブーマイスターの認証が与えられるというものです。
竹に関わってくれる人を増やして竹林の整備活動を全国に広めるためにこの講座を作りました。例えば、受講者が横浜から来てくれたら横浜の竹林を整備できるようになるし、九州から来てくれれば九州の竹林が整備されます。このようにして全国から集まった受講者が竹について学んで竹林整備の技術を得ることで、全国の竹林整備が進んでいきます。
自然とともに「自分で」暮らす
Q. 最後に、今までの活動で嬉しかったことや印象的だったことを教えてください。
植松さん 竹炭の土壌改良効果が実感できたことです。最近では、ブドウの木が枯れ始めてしまったという相談を受けた際に、木の周りの土に竹炭や竹の葉を混ぜたところ木が復活したんです。竹の力を皆さんに伝えられることが嬉しいですね。
嶋さん 現代社会では、必要なものがあれば買えばよいという感覚が当たり前になっています。この大量消費社会では当たり前のような感覚だったものが「自分で作れる」「自分で取りに行けばいい」と気づけたときや、竹林整備に参加してくださった方々の意識を変えられたときにやりがいを感じるんですよね。
大井さん 欲しいものを全部買うのではなく、自分の手を汚して、自分で苦労をして、ものを手に入れる。そんな暮らし方を自分の子どもたちに伝えたいという人が本当に多いんです。ぼくは、お金さえあれば何でも手に入る時代はもう終わったと思っています。お金では買えないような、人間としての本当の生き方がここにはあります。
生き方は自然が教えてくれる
捉え方や使い方次第で大きく変わる自然の価値とはなにか、改めて立ち返るような時間でした。事業を通して山を守り、国や県をはじめ、ひとりでも多くの人に、日本の山のことや放置竹林のことに関心を持ってもらうことで、未来の子どもたちに美しい地球を残したいという想い…そして何より、本当の豊かさとはなにか。自然と共生しながら暮らしを紡いでいくという、当たり前のようで現代においては稀有ともいえる空間がそこにはありました。
忙しない現代社会、ふと自分が自然に生かされているということを忘れてしまうこともあるかもしれません。そんなときこそ、ぜひアトリエDEFを訪れて、自然のありがたさや本当の豊かな暮らしを感じてみてはいかがでしょうか。
アトリエDEF
〒408-0002 山梨県北杜市高根町村山北割2285
TEL 0551-45-6355
HP https://a-def.com
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