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その選択が社会を変える

「香害」時代に知っておきたい「香り」との付き合いかたとは?|INNER FLARE

Change Maker

「何かしたい」という思いはあるのに「何から始めればいいのか分からない」。そんなもどかしさを感じていませんか? 調べるほどに混乱するし、善悪だけで語られる社会に疲れてやる気まで削がれてしまう。環境問題や社会課題の難しさはそんなところにあるのかも。「正解がない」と言われる時代だからこそ、問題を様々な角度から見ることで、より良い解決策を見出せる可能性は高まります。社会を変えるための一歩を踏み出したいときに、道しるべを探しに行くコーナーです。

今回お話を伺ったのは、小宮山 大樹さん。


調香師/フレグランスアーティスト。常識や慣習に捉われず感覚やセンスを大事にする方へ向けて、他のフレグランスにはないオリジナリティあふれる「香り」にこだわり、世界に誇るフレグランスづくりを目指しています。飾りすぎず、それでいて予想を上回る魅力的な香りを提供してくれるプロフェッショナル。

「香害」時代に知っておきたい
「香り」との付き合いかたとは?

雨上がりの森の空気に、パンが焼ける甘い匂い、ふと嗅いだ風に思い出す遠い記憶。私たちの日常は、無数の香りに彩られています。しかし、この豊かな世界に新たに生まれた「香害」という言葉が示すように、頭痛、めまい、吐き気、アレルギー反応など、香りが不快感や健康被害の原因になってしまうことも。

このような複雑な状況の中で、私たちはどのように香りと向き合っていけばよいのでしょうか。その答えを探るべく、これからの香りとの付き合い方について、調香師の小宮山さんにお話を伺いました。


幼い頃から香りが好きで、香りに結びつく記憶や心理に関心を持っていたという小宮山さん。

山梨県立甲府第一高校を卒業後、東京バイオテクノロジー専門学校で化粧品開発と調香を専攻し、香水メーカーや化粧品製造メーカーを経て2023年9月に独立。香りと化粧品を主幹事業とする株式会社INNER FLAREを設立しました。

現在はフレグランスアーティストとして、化粧品製造コンサルタントや専門学校の講師、香りで空間をデザインするなど、活動の幅を広げています。

香りを知り、リテラシーを高める


私たちが日常的に感じている香りの多くは、複数の香り成分が組み合わさって構成されていることをご存じですか?

例えば、森の中を歩くときに感じる清々しい香り。針葉樹の放つα-ピネンやβ-ピネンがすっきりとした爽快感を与え、土壌中の微生物が作り出すゲオスミンが雨上がりの森の香りを演出し、樹木から放出されるフィトンチッドは、心身をリラックスさせる効果をもたらすと言われています。


「こうした複雑な香りの構成を理解することが、香りのリテラシーを高める第一歩です。香りを単品の香料に分解して理解することで、自分の好みや苦手な香りが何か分かるようになります」と小宮山さん。

実際に小宮山さんが開催しているワークショップでは、参加者が40種類ほどの単品香料を嗅ぎ、それらを組み合わせて自分だけの香りを作り出していきます。今までは一つの香りだと思っていたものが、ワークショップでの体験を通じて少しずつ嗅ぎ分けられるようになり、香りの世界への理解が深まることで、自分の好みがより明確になるのだとか。


「香りが強すぎることによる害と、化学物質過敏症の話は分けて考える必要もありますね。私たちは天然は良いものだと思いがちですが、天然でもその時々で身体に合わないことはありますし、化学合成されたものが一概に悪いともいえない。そうした香りにまつわる背景を知ることが、『香害』を考える上でとても大切だと思うんです」

小宮山さんによると香害は2つに分けられるとのこと。

ひとつは、香りの強さ。香り製品の香料配合率を賦香率(ふこうりつ)といい、そのパーセンテージが高いと、天然・ナチュラルケミカル・ケミカルに関わらず、香りが強く感じられるのだそう。また、香水などは付けるタイミングも重要です。付けた直後に人に会うと揮発性の高いトップノートの成分を感じやすいため、相手にキツイ印象を与えがち。

ふたつめは、化学物質過敏症の問題。合成香料には、自然界に存在する成分を単離したナチュラルケミカル香料と、自然界には存在しないケミカル香料があります。この二つを比較すると、後者のケミカル香料の方が発香力が強い物もあるので過敏に反応する可能性があるのだそうです。

私たちの知らない
天然香料の背景に隠されたもの


香りの世界は環境問題とも密接に関わっていますが、天然の香料を使用することが必ずしも環境に優しいわけではないという事実は、多くの人にとって意外かもしれません。

「例えば、愛用している人も多い定番のムスクも、天然のムスクはジャコウジカの分泌物から採取されていたため、この香料を得るためにジャコウジカが乱獲されて、絶滅の危機に陥ってしまったこともあります。今ではジャコウジカは絶滅危惧種に指定され、天然ムスクの使用は厳しく制限されていますが、こうした背景を踏まえると天然素材がいいとも限らないんですよね」


ブルガリアやトルコなどの特定の地域で採れるローズオイルは特に高価で需要が高い一方、過剰な生産による産地での土壌の劣化や生物多様性の損失といった環境問題が起きています。

需要の増加と違法伐採により、インドの野生のサンダルウッドも危機的状況に。成熟したサンダルウッドの木が香油を産するまでに30年以上かかるため、持続可能な供給が極めて困難になりインド政府は厳しい規制を設けていますが、密輸は後を絶ちません。

このような理由から、合成香料にも一定の役割があり、合成香料の登場によって天然資源の過剰利用を抑えることができる様になったのだそう。

過剰採取の問題は単に香料産業だけの問題ではなく、私たち消費者の選択や価値観とも深く関わっていて、環境に配慮した製品を選ぶことや使用量を適切に保つこと、香りの背景にある環境問題に関心を持つことが、持続可能な香り文化につながります。

香りと化学物質過敏症


そして「香害」を考える上でもう一つ課題となっているのが、化学物質過敏症のこと。

香り付き柔軟剤や洗剤、消臭スプレーなど、私たちの日常に溶け込んでいる製品の香りの秘密は「マイクロカプセル」と呼ばれる小さな粒にあります。柔軟剤のボトルキャップ1杯の中には1億ものマイクロカプセルが含まれていると言われ、排水からの環境汚染も深刻な課題の一つ。


「香りそのものよりも、香りを取り巻く原料に問題がある可能性が高いですね。柔軟剤のマイクロカプセルの主原料に含まれるイソシアネートは汚染や化学物質過敏症の原因であると言われていますし、マイクロプラスチックとして海洋流出しています。最近は発酵の技術を用いて作られるバイオ由来の香料があって、石油資源ではない新しい選択肢として注目されていますが、こうした技術開発はもちろん、業界団体のルールに則った対応以上の、人や環境に配慮した取り組みを、企業は自主的にしていく必要があるのだと思います」


そもそも、いつでも同じ香りがするのは、当たり前のことでしょうか。移ろう自然の中では、季節の花々が、雨に濡れた草木が、陽に温められた土が、それ以外の無数のものが発する匂いが、さまざまに混ざり合って日々刻々と変化していきます。

「同じ刺激を与えられ続けるとすぐに麻痺してしまう人間の鼻は、変化があるからこそ香りを感じることができます。こうしたことを知りながら、香りに対する理解を深め、より意識的に香りと向き合うことが大切ですね」

香りのリテラシーを高めることで自分に合った香りを選び、適切に使用し、環境への配慮も忘れない。天然か合成かという単純な二項対立を超えて、人間と自然がいかに調和し共生していくのか?柔軟剤や洗剤などの選択の仕方を含め、そんな香り製品との新しい付き合い方がこれからの時代には必要とされているのだと感じました。


「『使うのがもったいない』と言われることもあるほど、みなさんご自身で作った香りが好きなんです。今までは作られた香りを買う時代でしたが、これからは自分に合う香りを知って作る時代。『香害』にならない為に何を選べばいいのか?どう使うのか?リテラシーを高めて香りを正しく扱える人が増えてくれると嬉しいなと思っています」

子どもが保育園から帰ってくると、時折柔軟剤の移香で頭痛がしていた私。「それでも、香りのない世界を作りたいですか?」という小宮山さんの言葉にとてもハッとしたのでした。「香害」という言葉のままに善悪で捉えず、その背景にあるものを知ることも大切なこと。

香りの基礎知識や安全な使い方を学びながら、その影響力も正しく理解する。そんなバランスの取れた香りとの付き合い方を知りたい方は、ぜひINNER FLAREのワークショップへ参加してみてください。きっと新しい香りの世界に出会えるはずだから。

株式会社INNER FLARE

〒400-0049 山梨県甲府市飯田3-10-25 2F
TEL.070-6999-2020
13:30〜21:30(金曜日定休 9/1〜3/31は土曜日もお休み)
HP https://inner-flare.jp/
Instagram @inner_flare_from_yamanashi/

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岩崎 舞@taneto_mai
エシカルメディア「taneto」編集長。山梨在住、2児の母。セラピスト歴18年。憧れの起業家はYAMAPの春山さん。人生の物語りと哲学、めんどくさくて泥臭いことが好き。


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