Learning by doing  | いのちがめぐる暮らし

まなび、めぐる暮らし

失われゆく生物多様性の今|日本高山植物保護協会

Learning by doing
実践しながら学ぶ|vol.13

tanetoのテーマの一つは「 – Learning by doing – 実践しながら学ぶこと」。環境問題に取り組みたいと思っても問題が複雑に思えて「何をしていいのか分からない」という声も多いなか、正解のないこの時代に進む道をみつけ、ひと足先に「めぐる暮らし」をはじめているあの人にお話を聞いてみるコーナーです。

今回お話を伺ったのは、中村 光吉さん。


NPO法人日本高山植物保護協会専務理事、三ツ峠ネットワーク代表。長年希少野生動植物の保護を行うエキスパート。専門はラン科の植物。

私たちの知らない山奥で
自然環境を守る人たちがいる

「環境のことを知りたいなら、山に入って現場を見るとよく分かるよ」。そう教えてもらい、長年高山植物の保護をしているという三ツ峠山荘を訪ねました。今回、甲斐犬のカイとともに山を案内してくれたのは、NPO法人日本高山植物保護協会 理事の小俣 滋さん。


「開運山」「御巣鷹山」「毛無山」という三つの岩峰が連なり、高山植物や山野草でにぎわう豊かな植生。日本の新・花の百名山のひとつにも選ばれている「三ツ峠」は、文豪・太宰治がこの山を舞台に小説を描いたことで知られ、ハイキングコースとしてはもちろん、岩場を活かしたロッククライミングができる場所もあり、初心者から上級者までそれぞれのレベルに合わせて楽しむことができる人気の山なのだそう。


山頂までの道のりで出会う、たくさんの高山植物たち。山野草愛好家の間で人気の高いこのピンク色の小さなカモメランも、残念ながらリストに名を連ねている絶滅危惧種のひとつです。

駐車場から植物観察をしつつ2時間半。登頂時、あいにく富士山は雲に隠れていたものの、疲れを癒してくれる壮大な絶景が迎えてくれました。小俣さん曰く「登山は心の洗濯」というのも頷けます。

人と自然の距離が生み出したもの

高山植物という言葉を耳にしたとき、街中で暮らす私たちの多くは、自分の日常生活とつながりを見出せないのではないでしょうか。もちろんこの文章を書いている私自身もその一人で、絶滅危惧種を前にしても「いまいちピンとこない」というのが本音のところ。「どこか遠い世界の出来事」のように感じてしまい、切実さや緊急性を実感できないのが現状です。

しかし、この「ピンとこない」感覚こそ都市生活者と自然環境との距離を表していて、日々の生活に追われる中でいつの間にか自然との接点を失ってしまった現代社会の縮図とも言えるのかも。


知らなければ何の問題もないように感じる山の中で、一体何が起きているのでしょうか?山頂から少し下ったところにある三ツ峠山荘を拠点に保全活動を行う中村さんに、絶滅危惧種をめぐる背景について教えてもらいました。


絶滅しつつある「いのち」を前に

まるで仏様の蓮華座(れんげざ)を思わせる優美さから「山野草の女王」という異名を持ち、春の訪れを告げる「アツモリソウ」


多くの人に愛されてきた反面、30年ほど前のバブル経済絶頂期には、盗掘されたアツモリソウが1株100万円近い価格で販売されるなど、人の手による盗掘や乱獲によりその数は激減。山に咲き誇っていた一つの種が姿を消したことで自然が暴走し、山の生態系が大きく変化したそうです。

「山梨県でも、希少野生動植物種の保護に関する条例でアツモリソウの採取が禁止されたのですが、条例ができてやっと落ち着いたと思ったら、今度は気候変動や増加するシカによる食害で生育環境が脅かされてしまった。私が子どもの頃、アツモリソウが一面に咲く素晴らしい景色を知っているからこそ、この景色を守りたいと思ったんです」と中村さん。

危機的状況を目の当たりにした地元の有志たちが立ち上がり、三ツ峠ネットワークという保全活動を行う団体を設立。地域の協力を得ながら保全活動が始まり、今では全国各地からボランティアが自主的に参加して活動が行われています。


シカの食害を防ぐための防護柵の設置をしたり、繁茂しすぎた植物の除草など、生育環境の整備は欠かせない活動のひとつ。季節ごとに山に入り丁寧に手入れを続けていますが、鹿が木を伝って防護柵を飛び越えるために新たに修繕したりと人的にも経済的にも大きな負担が…。

「アツモリソウは、その生育に不可欠な菌根菌との共生関係や、種子から開花までに7-10年もの歳月必要で非常に難しいんです。少しずつ株の数は増えてきていますが、自然の回復には長い時間がかかりますね」


見えない恵みの価値を知る


かつて日本の山野に生息していた狼は、生態系の頂点捕食者として重要な役割を果たし、シカやイノシシなどの草食動物の個体数を調整する役割がありました。しかし、狼の絶滅と人々の生活様式の変化に伴う狩猟や里山との関わり方の変化により、ニホンジカの生息数が驚異的に増加。山梨におけるシカの適正生息数は4,700頭と言われていますが、現在の推定生息数は10倍近い46,000頭を超えています。

こうした数字が示す生態系の歪みは想像以上に深刻で、一度人の手が入り資源を使うことによって生態系を維持していた里山は、人が関与しなくなることで急速にそのバランスが崩れていくのだそう。
 


「シカの増加は、単に植物を食べ尽くすだけの問題ではありません。森林の下層植生が失われることで土壌が流出したり、森林が雨水を蓄え徐々に河川に流す働きが低下して、さらには生物多様性が失われていくことにもつながります。それだけではなく、保水機能がなくなりハゲ地となった山は、土砂災害につながる危険性も増していくんです」

アツモリソウの保護をしている場所へ案内をしてもらいましたが、素人目に見てもはっきりと分かるほど、保護柵の中と外では植生の違いがありました。


「現在の鹿などの生息数の増加がもたらしている、林業や農業への被害の中で『有害鳥獣』という言葉が使われますが、彼らに対してこの言葉を使うのは、人の都合でエゴだと感じているんです。だから、中村先生が仰っていた『人間が自然を保護する事は出来ない、自然が人間を保護してるから』というのは、本質だと思いますね」と、小俣さん。

生活のさまざまなシーンが便利なシステムで囲まれていく反面、自然との関わりが減っている現代社会。アツモリソウの保護という単に一つの植物を守るだけでなく、自然保護とは何か?私たちの暮らしとどんなつながりがあるのか?大きな視野で捉えた生態系のあり方を改めて考える必要があるのかもしれません。


「ラン科の歴史はおよそ8000万年と言われています。今の人類はたった20万年位。地球の歴史ではほんの一瞬現れた存在が、全く意味のない戦争や人によって温暖化などで他の生物を絶滅させていること。その先には人も住めない地球になってしまうこと…。それが一番心配なんです」

人が生きることで自然を壊すのではなく、地域の生態系を学びながら保全活動に参加すること。一人ひとりが自然との関わりを見直すことは、未来の豊かさを守り育てるための大きな力になります。

三ツ峠ネットワークでは、保護活動に参加してくれるボランティアも募集中とのこと。保全活動に参加希望の方は、ぜひ山荘を訪ねてみてくださいね。

三ツ峠山荘

〒403-0021 山梨県南都留郡富士河口湖町河口2733−1
TEL0555-76-7473
HP http://mitsutouge.net
Instagram @mitsutoge_sanso_

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岩崎 舞|@taneto_mai
人生の物語りと哲学、めんどくさくて泥臭いことをこよなく愛する、taneto編集長。欲しいものはSONYのα7Ⅳ。死ぬ前に食べたいのは納豆ごはん。憧れの起業家はYAMAPの春山さん。


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